ターナー、ジョセフ・マロード・ウィリアム Turner, Joseph Mallord William 1775~1851

 イギリスの風景画の巨匠ターナーが人知れずエロティック・アートをものしていたという事実は、一般にはほとんど知られていない。

 批評家のジョン・ラスキンは、信奉するターナーの死後、残された厖大な素描の整理にあたった。すると、保存するに”ふさわしくない”一群の作品に出くわすことになった。ラスキンは英断を下す。彼はナショナル・ギャラリーの保管委員の権限において、それらを焼却してしまったという。

 典型的なヴィクトリアンである貞潔なラスキンとしては、崇高な風景画の巨匠に、性器や交合の図など許し難かったようだ。ただし、彼はターナーに好色な一面があることを承知していたと思われる。というのも、ターナーの人格のおもな要素の一つは色好みである、と語っているからである。

 事実、ターナーは終生独身だったものの、活発な性衝動の持ち主だった。若い頃から売春宿に足繁く通い、未亡人のセアラ・タンビーとのあいだに二人の私生児をもうけ、老境にさしかかってからも、またもや寡婦のソフィア・ブーズという女性と人目をはばかりながら同棲している。

 幸いなことに、ラスキンの英断を逃れたエロティカは少なからず現存している。最近の研究によれば、そもそも実際に焼却されたのか疑問を呈する見解が示されている。いずれにしても、女好きで酔っぱらい、私生児の生みの親というターナーの素顔は、そうした彼の知られざるエロティック・アートが雄弁に物語っていよう。

 

 

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