中世 Erotic Art in the Middle Ages

 キリスト教に支配された中世は、性愛芸術の暗黒時代と思われているかもしれません。ところが意外にも、キリスト教芸術のなかにこそ、男女の交わりや性器の露出を見いだすことができます。

 例えば、「ミゼリコルディア」です。これは聖歌隊席などの畳み込み椅子の裏に施された彫刻です。普段は人目に触れない場所なため、教会建築職人の伝統技巧の発揮場として、ときに性的なモチーフが刻まれました。

 また「シーラ・ナ・ギク」という、女陰を露出させた裸婦の彫像もあります。これは異教起源のもので、もともと魔除けの彫像であったと考えられています。性器が厄を祓うというのは、洋の東西を問わず呪術的信仰に広く見られます。

 そのほか、教会の柱頭やステンドグラスやガーゴイルなどにも、さまざまな性的意匠が見てとれます。

 煉獄や地獄を描いた宗教画、七つの大罪の一つ「淫欲」の図像にも、性的なイメージが散見されます。ただし、これらはむろん肉欲の戒めとして描かれたものです。

 世俗芸術では、ずばりセックスを描いたとなると、『健康全書』や『身体の摂生』といった医学書の写本挿絵を挙げることができます。ただし、これらの挿絵は、上流貴族のためのセックスの手引きとして医学的な目的で描かれたものです。

 明らかにエロティックな絵としては、素朴な表現ながら、チョーサー『カンタベリー物語』、ボッカチオ『デカメロン』などの写本挿絵を挙げることができます。

男女の交わり 『健康全書』より 1390~1400年頃
男女の交わり 『健康全書』より 1390~1400年頃

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