ファン・エイク、フーベルト Van Eyck, Hubert 1370頃-1426    ファン・エイク、ヤン Van Eyck, Jan 1390頃-1441

 西洋美術の人体表現には、ギリシア・ローマ芸術に端を発する、完璧な人体美を追究した、理想的な裸体像の流れがある。しかし、美術史家ケネス・クラークがいうとおり、それとは別にもう一つの流れもある。それは、中世の写本挿絵や教会の彫像や墓碑のレリーフに登場する、罪に打ち震える貧弱で頼りなげなはだかの人間から発した、いわゆるゴシック風の裸体像の系譜である。そのもう一つの流れのなかでも、もっとも成熟したかたちを私たちに示しているのが、ゲント祭壇画の《アダム》と《エヴァ》であろう。

 ゲント祭壇画はフーベルトとヤンのファン・エイク兄弟によって描かれたとされる。しかし、どこまでが兄フーベルトの手になり、どこまでが弟ヤンの手になるかは、いまとなっては定かでない。現ベルギーのゲント市にある聖バーフ大聖堂内の礼拝堂のために制作され、1432年に完成を見た。祭壇画は上下2層からなる計12枚のパネルで構成されており、《アダム》と《エヴァ》は上層の左右両端翼にそれぞれ配されている。なお、下層中央部のパネルが、この祭壇画の別称でもある《神秘の子羊の礼拝》である。

 《アダム》と《エヴァ》は北方の板絵としてはもっとも古い裸体画の一つである。おそらくフーベルトの原画をヤンが仕上げたものとされている。ほとんど等身大で描かれており、筋肉の陰影、浮き立った血管、それに陰毛にいたるまで、誕生したての油彩技法でじつにありありと活写されている。それゆえ、生身の人間の温もりや息づかいが伝わってくるようだ。

 

 

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