ゴヤ・イ・ルシエンテス《わが子を喰らうサトゥルヌス》

 
 ギリシア神話が伝える世界の始まりは、おぞましくも乱脈な血縁関係に満ちている。

 大地の女神ガイアは、自分の息子で天空の神であるウラノスと交わり、最初の種族であるティタン神族を産む。しかし、ウラノスは生まれた息子たちを次々と地下の世界に投げ込んでしまう。そこでガイアは復讐のために末息子のクロノス(サトゥルヌス)に鎌を与え、父親ウラノスを去勢させる。そのクロノスといえば、お前は自分の子供に倒されるであろうとガイアから予言されたため、わが子を次々とむさぼり喰らうといった調子である。

 スペイン絵画の巨匠ゴヤが描いたこの神話画は、われわれ人間の闇の顔を暴きだしているかのようだ。人間は他者を犠牲にすることなしには生きてはいけない。他者としては、自分の肉親とてもむろん例外ではない。人はみな自分のなかに暗黒を抱えている、一皮むけばだれでも盲目的な生の衝動のとりこである、とゴヤは語っているようだ。

 

ゴヤ・イ・ルシエンテス《わが子を喰らうサトゥルヌス》 1820~23年 プラド美術館蔵
ゴヤ・イ・ルシエンテス《わが子を喰らうサトゥルヌス》 1820~23年 プラド美術館蔵

 

[出典:吉田八岑/田中雅志『宗教地獄絵残虐地獄絵』大和書房 2006/07]

 

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