*ルドヴィコ・マリア・シニストラリ『悪霊姦、およびインクブスとスクブスについて』(一七〇〇年)   Ludovico Maria Sinistrari, De Daemonialitate, et Incubis

【解説】

 ボダンからレミ、デルリオ、ボゲ、グアッツォ、ド・ランクルへと続く一六~一七世紀の名高い悪魔学者の系譜の最後を飾るのが、ルドヴィコ・マリア・シニストラリ(一六二二~一七〇一)である。シニストラリはイタリア北部ノヴァーラ近郊のアメノ出身で、パヴィアで古典を学び、二十五歳でフランチェスコ修道会に入会した。そののち、パヴィア大学の神学教授となり、ローマの宗教裁判所最高法廷の顧問、アヴィニョン大司教の総代理などを歴任した。

 『悪魔姦』は、シニストラリがインクブス(男夢魔)とスクブス(女夢魔)について論究した書である。中世以来、トマス・アクィナスをはじめ数多くの学者たちが夢魔について論じてきたが、まるごと一書を費やしてその存在の証明を試みたのはシニストラリだけである。

 シニストラリは、トマス・アクィナスやグアッツォらの正統的見解とはまったく異なる独自の夢魔説を展開する。つまり、インクブスやスクブスは、けっして悪霊とか悪魔ではないという。彼らはイタリア語で「フォレット」、スペイン語で「ドゥエンデ」、フランス語では「フォレ」と呼ばれている生き物である。よって悪魔祓いを恐れない。生まれたり死んだりし、性別があり、人間のような感情や物資的肉体を備え、じつに執拗に官能的欲求を満たそうとする。

 また、インクブスにはそれ自身の生殖能力があり、人間の男から精液を借りなくても、自分の力だけで女を妊娠させることができる、等々。したがって、インクブスは宗教に反する行為に誘惑するのではなく、ただ貞潔に反する行為に誘惑するだけである。そのため、たとえその誘惑に屈したとしても、背教の罪に陥ることはなく、淫乱の罪に陥るにすぎない、としている。

 

【出典】

*Ludovico Maria Sinistrari, Demoniality, translated into English from the Latin (with Introduction and Notes) by Montague Summers, n.p., Kessinger, n.d., pp.6-8, 11-22.

*翻訳に際しては次の資料を参照した。Lea, Henry Charles, Materials toward a History of Witchcraft, New York, AMS Pr., pp.919-922.

 

【翻訳】

 

二七 インクブスは、イタリア語では「フォレット」[folletto]、スペイン語では「ドゥエンデ」[Duende]、フランス語では「フォレ」[Follet]と呼ばれているものである。彼らは、じつに不可思議で不可解にも、悪魔祓い師の言うことを聞かず、悪魔祓いをなんら恐れず、また聖な事物をいささかも畏敬せず、聖なる事物を近づけられてもなんら動じる様子はない。[後略]

 

三〇 さて、神学者や哲学者たちが述べているとおり、人間と悪霊との性交渉によって人間が生まれることがあるということは、疑いようもない。ベラルミーノ、スアレス、トマス・マルベンダといった学者たちによれば、反キリストはこのようにして生まれるのだという。そして、こうしてインクブスによって生まれた子供は、当然の理由によって、背が高く、とても頑健、じつに大胆不敵、このうえなく傲慢で、心底邪悪であると述べている。

 マルベンダは、その理由について、次のようなフランシスコ・デ・バレスの言葉を引用している。「インクブスが女性の子宮に注入するのは、通常量のごく普通の人間の精液などではない。大量で、とても濃く、熱く、活発で、漿液〈しょうえき〉[粘性物質を含まない、比較的さらさらした透明な分泌液]を持たない精液である。これは、彼らにとってはたやすいことである。なぜなら、スクブスは、精力的にして頑丈でよって精液の量がとても多い人間の男を選び、そうした男と交わればよいからである。また、インクブスも同様の体質の人間の女を選び、そうした女と交わればよいからだ。その際、インクブスは通常よりも大きなオルガスムをともに感じるようにする。というのも、精液の量が多くなればなるほど、性交の快感も増大するからである」。

 マルベンダは以上のバレシウスの言葉に同意する。また、古代のさまざまな著述家たちの証言にしたがい、こうした交わりによる誕生についても列挙している。

 すなわち、リウィウスとプルタルコスによって伝えられるロムルスとレムス。ハリカルナッソスのディオニュシオスと大プリニウスによって伝えられる古代ローマ第六代の王セルウィウス・トゥリウス。ディオゲネス・ラエルティオスと聖ヒエロニムスによって伝えられる哲学者プラトン。プルタルコスとクィントゥス・クルティウスによって伝えられるアレクサンドロス大王。聖ユスティノスとアッピアノスによって伝えられるシリア王国の初代の王セレウコス。リウィウスによって伝えられるスキピオ・アフリカヌス。スエトニウスによって伝えられるローマ帝国初代皇帝アウグストゥス。ストラボンとパウサニアスによって伝えられるギリシアの勇将アリストメネス。また、インクブスと、カール大帝の娘である修道女とのあいだに生まれた英国の人マーリン。そして最後に、マルベンダが引用するコホラエウスの著作に記されているとおり、マルティン・ルターなるあの忌まわしい異端の開祖である。 



[出典:田中雅志 編著・訳『魔女の誕生と衰退 ― 原典資料で読む西洋悪魔学の歴史』 三交社 2008年] 

 

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